つぶやき その二十九                令和6年9月30日 

2024/10/01

つぶやき その二十九                令和6年9月30日 

 

“持っている研修生”の濃っ~い3週間について

 

弊社にはときどき親会社の商社から研修生が来る。どうしてもデスクワークが中心となってしまう商社の受け渡し担当にとって“現場のリアル”を経験することは

彼(彼女)らの仕事のやり方に深みや重みを加えるには最も有効な手段だと考えるからであろう。弊社創業以来10人程度の研修生を受け入れたであろうか!?最長は半年、最短は一週間程度と記憶している。この数は創業40年弱の弊社にとっては3~4年に一人のペースなのであるが、この3年間は1年に一人のペースとプチ研修ブームの状況が発生している。直近の研修は8月26日~9月13日の3週間で行われた。研修の密度の濃淡にはその期間の入港隻数が大きく関わってくる。本船の入港から出航迄に経験できる様々な事象には同じパターンは存在しないからである。昨年度の弊社の年間取扱本船数は46隻。ここから計算すると3週間で立ち会える本船荷役機会は2.65回ということになるのであるが、ここで持ってる彼女が大谷翔平ばりのミラクルを起こしたのである。

 

第一船 BELAJA  U.S.CORN (GULF)

LOA 199.92M 船籍NORWAY FIRST PORT鹿島(SECOND 千葉) 荷役期間 8月30日~9月4日 植検結果 虫在り合格 荷役数量 23,000㌧ サラエ2H

 

第二船 ZE XIANG  U.S.CORN(GULF積)

LOA 190M 船籍HONG KONG FIRST PORT鹿島(2ND衣浦)荷役期間 9月5日~6日正午 植検結果 合格 荷役数量 6,400㌧ 着桟検疫

 

第三船 PORT VERA CRUZ BRAZIL CORN(Santos港出し)

LOA 199.98M 船籍LIBERIA FIRST PORT鹿島(関グレ→昭和産業)荷役期間

9月6日夕~9月9日 本船燻蒸あり 植検結果 不合格 荷役数量11、450㌧

 

第四船 CORESKY OL AUSTLALIAN WHEAT(GEELONG港(ヴィクトリア州)出し

LOA 179.96M 船籍 PANAMA FIRST PORT 鹿島(2ND八戸→3RD 十勝)

荷役期間 9月10日~11日 植検結果 合格 数量 10,000㌧ 一港検査

 

第五船 EVER ALLIANCE U.S.CRON,NON-GMO CORN&SOYBEAN(GULF積)

LOA 189.99M 船籍PANAMA FIRST PORT 鹿島(SECOND 名古屋)9月11日~12日 植検結果&荷役数量 CORN-2,700㌧虫在り合格 NON-G CORN 4,500㌧

合格 SOYBEAN 1,5006㌧合格(苫小牧向け回送)

 

前述の通り、この短期間で5隻の入港があったことは彼女の幸運であるが、その5隻の貨物のバリエーションにも目を見張るものがある。昨年度の弊社の取扱品目はとうもろこし、とうもろこし(NON-GMO),こうりゃん、大豆、大豆粕、大麦、小麦、飼料米の7銘柄であったが、この5隻でそのうちの4銘柄を制覇。この期間にトラック搬入されていた飼料米を加えると遭遇率は7割をこえることになる。また、トウモロコシに関しては主産地である米国産とブラジル産の両方を

カバーしている。この5隻の本船のサイズはたまたま、全てハンディ-マックスであったので、残念ながら、パナマックスカムサマックスにお目にかかることが叶わなかったわけであるが、“持ってる”彼女には、それ以上のご褒美が待っていた。鹿島港水先人会からの招待を受けて、対岸の日本製鐵向けのケープサイズ

本船の出入港の見学の機会を得たのである。水先人会事務所での情報交換に於いて話はタグボートの運行に及び、後日タグボートのオペレート会社である鹿島埠頭を訪問し、タグボートに関するリサーチも怠らなかったことは言うまでもない。さて、本文には様々な専門用語が登場しており、業界関係者が主な読者であろう前提で注釈も付けずに書き進めてきたわけであるが、最近当社を訪問し、施設見学して頂いている畜産関係を始めとした港湾関係以外のお客様に対し、案内時に説明不足の折には是非“つぶやき”をお読みになってください!と薦めている手前、以下太文字部分の解説を行うこととする。

 

GULF 米国産でミシシッピ川の下流域(ルイジアナ州、ニューオーリンズ付近)から積み出されるとうもろこしは、メキシコ湾(GULF OF MEXICO)経由で

輸出されるので、こう呼ばれている。一方で米国西海岸を仕出し地とするものは

PNW(Pacific north west) 、NO-PAC(North pacific) 、WEST積等の呼ばれ方をしている。

LOA(Length over all ) 船の最先端から最後端までの水平距離。船幅はBeam

船籍 船籍は本来その船の事実上の船主の所属国であるが、近年便宜置船籍という制度が主流になりつつあり、所有主の国籍と関係ない船の運航が行われている

便宜置船籍が増えることにより、パナマや、リベリア等の船籍国の増加がみられる中、今回はノルウェー、香港も加わり、ここでもバリエーションの豊富さが発揮されている。

合格、虫在り合格、不合格 合格は虫が発見されなかったケース。虫在り合格は発見された虫が、植検対象外の虫であった場合。不合格は植物検疫対象の病害虫が発見された場合。

着桟検疫、無線検疫 船舶を経由して検疫感染症の病原体が国内に侵入する恐れがないかどうかを確認する検査を検疫といい、近年では事前の船舶の保健状況等に関する通報内容の審査にて行われているが、稀にこの条件に合致しない場合、着岸後検疫官が直接船に乗り込んで、検疫を行うことが有る。(着桟検疫)この場合、検疫中には黄色のフラッグが本船ブリッジ付近に掲げられ、検疫終了までは何人たりとも乗船することが許されない。1年に1回有るか無いかのケース。

本船燻蒸 積み地で病害虫が発見され、本船のホールド内での燻蒸の実施を条件として輸出が認められるケース。燻蒸剤としては通常リン化アルミニウムが使用され、航海中の排気が不十分で、揚げ地(本邦)に到着時点で残留ガスが、安全の基準値を満たせず、更なるガス排気が必要となり、しばしば作業の遅延に繋がるケースが発生する。

一港検査 通常、本船が複数港に寄港予定の場合、植物検疫は港毎に実施することとなっているが、事前に寄港予定の全ての港からの同意の書面の提出があれば、初港にて一括で検査を受けることが可能となっている。これもレアケース。

回送 本船が接岸中の港湾施設に於いてサイロ搬入を行う以外に多港向けに内航船に積み替え、輸送を行う行為。“トランシップ”や“旅送り”とも呼ばれ、税関上は保税輸送の扱いとなる。

ハンディタイプ、パナマックス、カムサマックス、ケープサイズ 左から右に向けてサイズが大きくなる。本邦向けにはカムサマックスまでが、穀物輸送船として使われており、ケープサイズは通常、石炭や鉄鉱石の輸送に供される。

水先案内人、水先人会、タグボート 港や海峡など、固有の状況により本船単独の操船では安全の担保が難しい海域にて船長をサポートする職業。大きな船舶の操船にはタグボートのサポートが不可欠で、必ずタグボートを伴って行動する。

 

先週末、件のHさんより研修のレポートがメールで送られてきた。何と35ページにも及ぶ大作である。そういえば、研修の期間中、講師役側が彼女とのアポを取り付けるために四苦八苦していたのが、思い起こされる。ハードスケジュールの研修をこなし、後進が参考書宜しく使えそうな、立派なレポートが完成したのである。持っているHさんの吸引力があらゆる場面で発揮され、密度の濃い3週間であった極め付きは、この間に台風が5つ(11号~15号)も発生していることである。港湾の仕事にとって荒天時の船のやり繰りは個の能力の向上に繋がる即効的な環境である。研修も“嵐のごとし”であった。

 

さて、Hさんを含めた過去3年間の研修生であるが、昨年がSさん、一昨年がAさんと何れも負けず劣らずの才色兼備で、オジサンたちをメロメロにしてきた歴史がある。そこに来て今年は何と11月からもう一人の研修生の予定が追加されたのだ。性別は㊚、ここまで跳ね上がってしまったハードルを如何にクリアーしていくのか?他人事ながら心配で夜も眠れなくなってしまう今日この頃である。

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